「農泊を始めてよかった」と語るホストに共通するのは、
観光業としての成功より先に、人とのつながりへの喜びがあること。
この連載「ホストが綴る、農泊の魅力 」では、
鹿児島県の頴娃(えい)町で農泊を営む瀬川さんの想いを4回にわたってお届けします。
数字や実績ではなく、日々の暮らしの中から生まれた農泊という営みの豊かさを。
1日1組限定の宿でゲストと土地の日常を分かち合う彼女が、夏に見つけた小さな贅沢とは。
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ホストが綴る、農泊の魅力 Vol.1|チェックアウトのあとに残るもの
ホストが綴る、農泊の魅力 Vol.2|夏に見つけた、小さな贅沢
【ライター】瀬川 知香(暮らしの宿 福のや、)

著者 プロフィール
鹿児島県出身・在住。 大阪の旅行代理店、高知や鹿児島の観光協会勤務を経て、現在は夫と農業に従事する傍ら、古民家を再生した宿泊施設2棟の運営や、農村体験プログラム「畑旅」を主宰。 いろいろな場所に出かけ人と会うことが大好きでライターとしても活動する。
宿の外にも、暮らしが続いている

私の営む宿は、1日1組限定。
宿の中でゆっくり過ごしていただくことも多いのですが、ときどきお客様と一緒に近所へ出かけることがあります。
魚屋さんをのぞいたり、昔馬車が走っていた小道を歩いたり、海に貝殻を探しに行ったり。
どれも、特別なプログラムではありません。私たちが普段の暮らしの中でしていることを、一緒に体験してもらうだけ。
でも、そんな何気ない時間の中にこそ、旅先でしか出会えないものがあります。

ある日、お客様と一緒に農家さんを訪ねたことがありました。畑を見ながら、今どんな野菜が採れるのか、どんなふうに育てているのかを教えてもらう。
話を聞いているうちに、お客様から農家さんへ、いろいろな質問が出てきます。
「この野菜はどうやって食べるんですか?」
「この時期は、どんな作業が大変なんですか?」
最初は少し緊張していた農家さんも、いつの間にか笑顔になって話をしています。
「おいしかった」が、次の会話をつくる
旅先で食べるものが、その土地で暮らす人の顔とつながっていく。私は、これが農泊の面白さのひとつだと思っています。
ホテルに泊まって、観光地を巡って、食事をして帰る。それだけでももちろん旅はできます。
でも、農村に泊まると、旅の途中に「人」が入ってくる。
その人が、次に訪れる理由になることもあります。
「またあの人に会いたい」

農泊を続けていると、以前来てくださったお客様が、もう一度訪れてくれることがあります。
「今度はあの農家さんに会いたい」
「前に買ったお茶がおいしかったから、また買いたい」
そんな言葉を聞くと、旅の目的が少しずつ変わっていくのを感じます。最初は「鹿児島に行ってみたい」だったものが、「この町に行きたい」になり、やがて、「あの人に会いに行きたい」になる。
観光地ではない場所だからこそ生まれる、旅のかたちなのかもしれません。
農村の日常は、誰かにとっての旅になる

私たちにとっては、畑へ行くことも、近所で買い物をすることも、誰かとお茶を飲むことも、いつもの暮らしです。特別なことではありません。
でも、その「当たり前」を旅先で体験した人から、
「こんな時間が一番よかった」
と言ってもらうことがあります。
そのたびに、地域の魅力は、観光地だけにあるのではないのだと思います。
そこに暮らす人。
日々手入れをしている畑。
いつもの店。
季節ごとに変わる景色。
そんな一つひとつがつながって、ひとつの「旅」になっていく。
だから私は、農泊を「泊まる場所を提供する仕事」だけではなく、人と人をつなぐ仕事だと思っています。
宿を出たあとも、「あの人、元気かな」「またあのお店に行きたいな」そんな風に思い出してもらえたら嬉しい。
そして、もう一度この町を訪れてくれたときには、前に出会った人と「おかえり」と言える。旅が終わったあとにも、つながりが続いていく。
それが、農村で人を迎えるということなのかもしれません。
今日もまた、宿の外ではいつもの暮らしが続いています。畑では誰かが作業をしていて、道を歩けば近所の人と挨拶を交わす。そんな何気ない一日を、誰かにとっての「旅」に変えられること。
それは、農村で暮らす私たちにとっても、暮らしの価値をあらためて教えてくれる時間です。

農泊は、地域の「人」と「暮らし」を旅の価値に変え、交流を生み出していく取り組みです。
あなたの地域にも、まだ誰かに伝えられていない「日常」があるかもしれません。
農泊は、地域の魅力を「体験」という価値に変え、交流と収益につなげる取り組みです。
地域のいいところをお裾分けするような気持ちで、農泊を始めてみませんか。


